カッコいい名刺をやめてみた
「何屋さんかわからないよ」から始まった試行錯誤
私は、自信満々で作った名刺を、結局捨てることになった。
きっかけは、交流会での一言だった。
デザイナーとして活動を始めたばかりの頃、 初めて異業種交流会に参加することになった。
交流会に行くと決まったとき、真っ先に考えたのは名刺だった。
せっかくデザイナーを名乗るのだから、名刺にもこだわりたい。
どうせ作るなら、「さすがデザイナーですね」と言われるようなものにしたい。
そんな気持ちがあった。
レイアウトを考え、フォントを吟味する。
余白をたっぷり使い、情報は最小限に。
名前、
肩書き、
ポートフォリオのQRコード、
紙の厚さ、
手触り。
全体的に洗練された印象に仕上げた。 自分ではかなり気に入っていた。
これならきっと興味を持ってもらえる。 そう思っていた。
ところが、現実は少し違った。
交流会ではたくさんの人と名刺交換をした。
名刺を渡し、自己紹介をする。 会話をする。
でも、何か手応えがない。
相手の反応が薄いのだ。
もちろん失礼な態度を取られたわけではない。
ただ、会話が広がらない。
名刺を見てもらっても、「へぇ」で終わってしまう。
なぜだろう。
名刺には自信があったのに。
そんな様子を見ていた交流会のベテランの方が、そっと声をかけてくれた。
「何屋さんかわからないよ」
一瞬、耳を疑った。 え? そんなはずはない。
ちゃんと肩書きも入れている。
でも、改めて見返してみると、その言葉の意味がわかった。
“Web Designer” 肩書きは細い文字で小さく配置していた。
デザインとしてはよかった。
でも、初対面の人が数秒で理解できるかと言われたら、違った。
そのとき、あることに気づいた。
私は名刺を「作品」として作っていた。
でも交流会で必要だったのは「作品」ではなかった。
コミュニケーションの道具だったのだ。
異業種交流会にはさまざまな職業の人が集まる。
デザインに詳しい人ばかりではない。 名刺をじっくり鑑賞する人もいない。
ほとんどの人は、短い時間の中で何十人もの人と話している。
そんな中で必要なのは、
「この人は何をしている人なのか」
「どんな人なのか」
を一瞬で伝えることだった。
まずは覚えてもらうこと。 興味を持ってもらうこと。
仕事の話はその後だ。
そのことが、ようやく腑に落ちた。
そこから名刺の考え方が変わった。
かっこよさを追い求めるのではなく、伝わりやすさを考える。
覚えてもらいやすさを考える。
会話のきっかけになることを考える。
そして名刺を見直しているうちに、もう一つ気づいたことがあった。
これって、私が普段やっている商業デザインそのものではないか。
それから私は、名刺を何度か作り直した。
肩書きを大きくしてみたり、
顔写真を入れてみたり、
サービスメニューにイラストを加えたり、
名刺の大きさを正方形にしたり。
今振り返ると、そのたびに試していたのはデザインではなく、自己紹介の方法だったのかもしれない。
どんな言葉なら相手に伝わるのか。
どんな見せ方なら興味を持ってもらえるのか。
交流会のたびに反応を観察して、小さく修正する。
まるで商品やサービスのデザインを改善していくようだった。
面白いことに、名刺を変えるたびに会話も変わった。
「Webデザイナーなんですね」
で終わっていた会話が、
「どんなサイトを作るんですか?」
「なぜデザイナーになったんですか?」
と続くようになった。
名刺そのものが評価されたわけではない。
相手との会話の入口が、少しだけわかりやすくなったのだ。
誰に届けるのか。
何を伝えたいのか。
相手はどんな情報を求めているのか。
届ける相手によって最適な形は変わる。
高級感を出したいときもあれば、親しみやすさを出したいときもある。
同じ商品でも、ターゲットが変わればデザインは変わる。
それなのに私は、自分の名刺だけは「これが正解」と決めようとしていた。
名刺は一つでなければいけない。
そんな思い込みがあった。
でも、本当は違った。
交流会用の名刺があってもいい。
デザイン関係の人に渡す名刺があってもいい。
文章を書いている人としての名刺があってもいい。
相手に合わせて伝え方を変えるのは、不誠実ではない。
むしろ、相手が受け取りやすい形を考えることこそ、相手への敬意なんだ。
そう考えるようになった。
そしてこれは、名刺だけの話ではない気がしている。
私たちはつい、 「自分はこういう人間です」 と一つに定義したくなる。
でも、本当は、そんなに単純ではない。
デザイナーの私もいる。
文章を書く私もいる。
学び続ける私もいる。
家族と過ごす私もいる。
どれか一つが本物で、残りが偽物というわけではない。
全部、本当の私だ。
交流会で反応が欲しくて、何度も名刺を作り直した。
でも振り返ると、作り直していたのは名刺ではなく、
自分自身の見方だったのかもしれない。
名刺は、一つじゃなくていい。
そして、私も一つじゃなくていい。



わかります。ついつい、カッコイイの作りたくなりますよね😆
そうゆう自分もかっこよくしちゃいましたが。
色々試すとひとつじゃなくなっちうんですよね。軸もぶれてきてますよね😅
デザイナーって、クライアントが自分だと急にそうなる方が多いように感じます。仕事だとちゃんとできてる人なのに不思議。で、私が出した答えは、自分はプロデューサーになること。自分の中にいる、たくさんの自分自身の芸術家やライターやデザイナー、エディター、他を、統括する存在にして分割したんです。アイディアの引き出しのように役割を分担させて、ディレクターも数人配置する。今のところこの方式で、なんとか落ち着いています。😅情けない私。