私は埼玉出身で、今は他県に住んでいる。
私の子どもたちにとって、実家のある埼玉は「田舎」になる。
でも、特に観光名所でもなければ、これといった特産品があるわけでもない、普通の住宅街だ。
私が今住んでいる場所と、そう変わりはない。
夏休みとお正月には帰省するけれど、いわゆるニュースで見る「帰省ラッシュ」のように、新幹線に乗って旅をする特別感もない。
海や山があって、普段とは違う体験ができるわけでもない。
私自身もそうだった。
だから子どもの頃、夏休みに「どこか特別な場所に帰る」ということに、少し憧れていた。
私の子どもたちにとって、実家のある埼玉も、何か特別な場所だといいのだけれど。
そう思ってみても、残念ながら、我が家の実家にはそれらしい要素がなかった。
そんなある日、昨年のこと。
住まいの近くのスーパーで、地方のスイーツフェアが開催されていた。
規模はそれほど大きくない。全国各地のお菓子が並ぶ、よくある催事だ。
その一角に、見覚えのあるものがあった。
埼玉県民なら、きっと一度は見たことがある。
あの、埼玉銘菓「十万石まんじゅう」が鎮座していたのだ。
「うまい、うますぎる! 埼玉銘菓十万石まんじゅう」
子どもの頃に見た、テレビ埼玉の夕方の再放送のアニメとCMのフレーズが、頭の中によみがえった。
懐かしい。
それだけだった。
……いや、違う。
なんだか、ちょっと嬉しかった。
普段なら通り過ぎてしまうようなスーパーの一角で、
突然、自分の故郷に出会ったような気がして、
家族にも食べてほしくて、
「十万石」と焼き印が付いた小ぶりなおまんじゅうを買って帰った。
意外にも家族に好評で、特に子どもたちはとても気に入っていた。
「十万石まんじゅう」また、食べたいな。
埼玉に行ったら、買えるかな。
私が子どもの頃に見た夕方のアニメの再放送の話をしながらのおやつタイムになった。
今年のお正月に帰省した際は、ちょっと足を伸ばして、十万石まんじゅうがあるお店まで行き、無事買って帰ることができた。
観光名所があるわけではない。海も山もない。
それでも、帰省の楽しみがひとつ増えた。
「おじいちゃん、おばあちゃんの家には、十万石まんじゅうがある。」
それだけで、子どもたちにとって埼玉が、少しだけ特別な場所になった気がした。
子どもの頃の私にとっては、特別でもなんでもなかったお菓子。
でも、埼玉を離れてみて、その小さなおまんじゅうが、思いがけず大きな存在になった。
故郷というのは、観光名所や有名な特産品だけでできているものではないのかもしれない。
夕方のテレビから流れていたCM。
子どもの頃に食べたおまんじゅう。
家族と囲んだおやつの時間。
そんな何気ない記憶が積み重なって、いつの間にか「故郷」になっていく。
私の身近なスイーツがいつの間にか故郷の味になっていた。




埼玉県民なので十万石わかります。私は川越なので蔵造りもなかの方がなじみあります。十万石は大宮とか埼玉の東側ですかね?
まさかの埼玉w
サブスタック上でこのフレーズ聞けるとは🐽w